top of page

さまざまな生産性を使いこなす

執筆者の写真: 林明文
林明文
9月5日
読了時間: 4分

生産性に対する誤解

 以前に比べ、生産性に対する議論が活発になっている。一般的には売上の向上、利益の増加、社員への分配、内部留保の増加を実現するために生産性を上げなければならないと認識されている。これ自体に大きな問題はないが、多くの経営者や管理部門、人事部門などで意識をしている生産性は、労働生産性である。なぜこれだけ労働生産性に偏重した議論がされるのかはよくわからないが、生産性イコール労働生産性と認識されていることは確かだ。

 労働生産性自体に意味がないとは言わない。一人当たり稼ぐ付加価値の額、これを経年で比較し、業界平均や他国と比較することで、「一人」という単位の生産性の優劣が測定できる。しかし生産性には、さまざまな生産性が存在する。賃金生産性、賃金単価生産性、労働生産性、時間生産性などである。他にも一人当たり売上、一人当たり利益、最近流行りの人的資本ROIなども生産性である。

 これだけの生産性がある中で、労働生産性に固執する必要性は全くない。何を判断するかによって、どの生産性を使うかということをコントロールしなければならないということだ。別な言い方をすると“さまざまな生産性を使いこなす”ということだ。


経営に必須な生産性指標

 経営管理において、必要な生産性指標は何を分析するかによって変わる。その中でも最も重要だと言われる生産性は、賃金生産性である。これは賃金の総額を投下したらいくらの付加価値が返ってくるかという、経営全体から見ると最も人事の効率を判断する重要な生産性である。次に、日本では軽視をされているが、正確性という観点から時間生産性が重要だ。時間生産性は、その名前のとおり付加価値を上げるために合計何時間投下したかというものである。一時間当たりの生産性ということで計算される。OECDの統計にも掲載されており各国比較も可能である。

 これに対して似たような概念が、労働生産性である。労働生産性は、何人という人数に焦点を当てている。一人当たり2000時間働く年もあれば、1800時間働く年もある。このような超過勤務や休日取得などの影響を受けた概念で、一人当たりという生産性は正確性に欠ける。これをなぜか日本の企業は最重要視した生産性とみている。非常に深刻な誤解であり、すぐにでも認識を変えなければならない。

 他にも生産性指標はいくつかある。非常に面白いのが、賃金単価生産性というのがある。詳細は避けるが、このような生産性もあるということを認識してもらいたい。その他近年人的資本ROIなどいわゆる一人当たり営業利益と言われる指標がもてはやされそうになっている。労働生産性と同じように人的資本ROIは理論的な整理がなされていない。要は総投下資本の中で人的資本によってどれだけ利益に貢献したかという指標が必要であり、人的資本ROIはそれを証明できていない。できれば経営の中に取り入れない方が良い。


自社の指標

経営計画に生産性向上や最近では人的資本ROIの向上といった文言が散見される。しかしこういった企業の多くは、自社の主要な経営指標を知らないことが多い。生産性5%改善といっても全社の生産性がいくらであるか、またその10年ぐらいの推移、業界の生産性推移などが揃っていなければ生産性5%改善という目標も口当たりのいい数字を言っているにすぎない。

そして人的資本ROIを目標に掲げる会社などは、その具体的な施策を十分考えていないことが多い。それは、このROIが営業利益と人件費によって計算されるもので、いかに営業利益を上げるか、いかに適正人件費にするかといったことで、結‗は営業利益増加施策そのものを言っているに過ぎない。人件費は大きなリストラなどをしなければそんなに大きく変わるものではない。確かに質的向上という、育成やローパフォーマーの退職促進などは効果的な施策ではあるが、継続性によって効果が出るものである。

生産性の議論をする際には何をやりたいかによってどの生産性をどう改善するかという議論が必要であり、生産性イコール労働生産性、流行りに乗った人的資本ROIを前提とした議論などは決してその会社の改善には繋がらないということを認識すべきだ。


*YouTube番組人事データ解説「さまざまな生産性を使いこなす」を参考に執筆

 
 
 

コメント


bottom of page